朝日新聞社会部の藤森研さんの改憲に関する講演を、2004年9月25日発行の『JCJ神奈川支部通信』から再録します。
藤森さんは、9条は現実と乖離しているなど「改憲論」に対する反駁のしかたを、6点にわたり列挙して、わたしには参考になりました。JCJ神奈川支部通信49号(04年9月25日から憲法の価値を伝えるために
神奈川支部総会と講演会 神奈川支部は6月26日、ランドマークタワー13階のフォーラムよこはまで2004年度の支部総会と講演会を開いた。
総会は、清水雅彦事務局長を議長に選出し、03年度活動報告、会計報告、04年度活動方針、同予算案について討議した。04年度の活動方針として、憲法を護る運動に取り組むこと、支部通信を刷新することなどを決めた。
続く講演会では朝日新聞編集委員の藤森研さんが「憲法はいま…改憲の動きをめぐって」と題して講演した。
藤森さんは改憲の動きを整理しながら、最近の改憲論がかつての国家や民族共同体を強く志向する改憲論とは異なることをグラフで説明した。
また世論調査の結果を示し、「改憲すべき」という意見は過半数を超えたが、同時に「憲法9条は守るべきだ」という意見も多数を占めていることを指摘し、改憲論が多数を占める国会と世論は乖離しているとした。
藤森研さんの講演要旨 藤森研さんの講演要旨 小泉首相は歴代首相として初めて、就任後初の記者会見で、「憲法改正すべき」と発言した。その後、9.11の事件が起こり、テロ特措法が成立してインド洋に自衛隊が派遣された。また有事関連法案が成立し、今年には自衛隊がイラクに派兵された。こうした一連の状況は集団的自衛権行使にあたり、違憲だと個人的には考える。
自民党は05年の結党50周年をめどに憲法改正草案をまとめるとしている。民主党も06年に党の改憲案を出すという。
なぜ強まった改憲論改憲論は90年代に強まった。なぜ改憲論が盛んになったのか。一つは日本が豊かになり経済大国になったこと。労働運動は低調になり、「生活保守主義」が強まった。
冷戦が終結し、世界は軍事的にアメリカ一極化し、政治・経済的には多極化している。民族問題や宗教による紛争が多発した。1945年から50年頃までの戦後日本は貧しく、南北問題で考えると「南」にいた。冷戦時代は「西側」の一員。90年代は「北」側になった。経済大国としてアメリカから負担を求められるようになった。同時に大国としてのナショナリズムも強まっている。
日本はヨーロッパと比べると社会民主主義が未発達という要素もあるだろう。
護憲派が自滅したという議論もある。宮台真司さん(都立大助教授)は、右派論調を強めたのは護憲派だといっている。
こういう言い方は自分にも返ってくるのだが、護憲派は意見のあう仲間うちで集会をして、他流試合をしてこなかった。もっと反対側の意見を聞いて、議論をするべきだ。
新しい型の改憲論 朝日新聞社内の勉強会で、今まで公表されている改憲論を分析したことがある。
座標軸の横軸の右に行くほど軍事志向、縦軸は上に行くほど国家志向で、下へ行くほど個人重視、社会契約的な国家志向であるとして改憲論を位置付けてみた。
従来の改憲論は右上に位置し、90年代の新しい改憲論はグループをなして右の中ほどにくる。新型の改憲論の中心は読売新聞の改憲論で、新しい権利を打ち出している。今年、読売新聞は第三次の改憲試案を出した。その中で「社会の基礎としての家族の重視」が出てくる。GHQの憲法草案にも「社会の基礎単位としての家族」という言葉がある。「読売」はよく勉強している。
ただ家族の尊重というのは産経新聞のジェンダーフリーバッシングでも言われている。新しい改憲論も旧来の保守的価値観と通じているかもしれない。
憲法に関する世論 国会議員に意見を聞くと、自民党とともに民主党内にも改憲論が強い。一方で公明党は慎重だ。
憲法に関する世論調査の推移を見ると、1950年には軍隊を作ることに賛成の意見が反対よりも多い。しかし、60年の調査では自衛隊の強化に反対の意見が賛成を上回る。
以後、「憲法9条は変えない」「自衛隊は現状維持」が世論の多数派だ。
最近の各社の調査でも憲法改正すべきという意見が過半数を超えたが、憲法9条に関しては、「改正しないでよい」という意見が過半数だ。国会議員の意見と国民多数の意見はずれている。
改憲論への反駁 今の改憲論に反論できるのか、一つ一つ検討してみた。
1、今の憲法が押しつけという意見。
憲法制定直後の毎日新聞の有識者調査では、7割の人が戦争放棄は必要と答えている。日本人は憲法を積極的に支持した。
2、57年間、改正されず耐用年数がきている。
世界は戦争の非合法化を進めてきた。人類史の流れからみると憲法9条は先端的な規定だ。
「100人の20世紀」で与謝野晶子を取り上げたことがある。晶子は日露戦争当時、「君、死にたまふことなかれ」を発表して、批判を浴びたが一歩も引かなかった。この詩の内容は「タイムズ」にトルストイが発表した非戦論の論文と内容が共通している。トルストイの論文は当時、「平民新聞」に掲載されたが、晶子が「平民新聞」を読んでいた可能性は少ない。だが調べると、トルストイの論文は「東京朝日新聞」にも掲載されたことがわかった。晶子の孫が存命で確かめたところ、与謝野家では「朝日」をとっていたという。おそらく晶子は「朝日」でトルストイの論文を読み、共感して詩を書いたと思う。
20世紀の初頭にこうした非戦の思想が国境を超えて人々の共感をよんだ。
3、9条は自衛隊と乖離している。
憲法が現実と乖離しているという人は、もっと大きい乖離は問題にしない。それは国連憲章と国際情勢の乖離だ。国連憲章では自衛のための戦争以外は認めていない。しかし、現実は自衛以外の軍事行動はいくらでもある。
むしろ9条を生かし、戦争の非合法化を進めるべきだ。
4 一国平和主義だ。
国際貢献は非軍事でもできる。ジュネーブ軍縮会議の代表だった猪口邦子さんは「世界は日本が軍事的な国際貢献には制約があることを理解している。その他の面の貢献を高く評価している」と、国会の憲法調査会で発言している。
5 憲法は国民の権利ばかりで義務がない。
近代憲法は国の権力をしばり、国民の権利を定めるものだ。
6 新しい権利や憲法裁判所が必要。
プライバシー権や環境権を言う人は、歴代の政府がプライバシーや環境を守ろうとしなかったことをどう考えるのか。憲法裁判所にしても、最高裁が違憲審査するのを妨げたのは誰なのか。
以上のように、改憲論には十分反論ができると思う。
「護憲論」を誰にでも納得できるように語れるかどうかが大事だ。
(文責 神奈川支部通信編集部)
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